第5話 母乳とベビートイと竜の隠れ里
「知らない天井だ・・・」
取りあえず呟いてみたが、ここは一体どこだろう?俺が寝ているのは木製の簡素なベッドだ。
清潔な真っ白なシーツの下には干した藁のようなものが大量に敷き詰められており寝心地は意外と悪くない。
いまだぼーっとする頭で辺りを見渡せば、家具類はほとんどなく窓際に小さなテーブルと簡素な椅子が二脚あるほかには箪笥のようなものがあるだけだった。
一通り部屋の観察を確認し終えた俺は、この状況に至るまでの経緯を思い出してみることにする。
湖畔から出発
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ひたすら歩く
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洞窟発見、とりあえず中に入ってみる
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休憩がてらクレールのミルク準備
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小っちゃいドラゴン出てきた
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デカいドラゴン登場
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今に至る・・・。
「でっかいドラゴン出てきてそれからーーーうん、なんも思い出せねぇ!ってかクレール!?クレーーーールッ!!」
ようやく傍にクレールがいないことに気が付いた俺は焦りの余り大声を出してクレールの名前を呼んだ。
すると部屋の入口のドアが開き、そこから妙齢の女性が現れた。
「ようやく気が付いたと思えばうるさいのぉ、少しは静かにせんか。今しがたようやく眠りについたところだというのに、これではこの娘も起きてしまうではないか」
そう言いながら部屋に入ってきた女性の腕の中には今しがた俺が大声で姿を探し求めたクレールの姿があった・・・がしかし、よく見れば女性は身にまとった衣服の一部を、具体的に言えば片側の腰のあたりから胸の辺りにかけて露出させてクレールにその最早暴力的といってもいいサイズの胸を吸わせていた。
「ぶほっ!!な、な、なんて恰好してるんですか!?」
「ん?何かおかしなことでもあるかの?ワシはこの娘に乳をやっとるだけじゃ」
「そんなの見ればわかりますよ!!その状態で平然とこちらに近寄らないでください!」
「おかしなことを気にするやつじゃのう?」
幸いなことにその暴力的なサイズのモノの先端はクレールが咥えているため見えることはなかったが、それでも起き抜けにそんなものを見せられてはこちらとしても気が気ではない。
「とにかく胸を隠してください!」
「そうはいってもこの娘がワシの乳に吸い付いて離れんのじゃから致し方無かろう」
「いいから!隠してください!お願いします!!」
別に今更女性の胸を見た程度で狼狽える年齢でもない、寧ろもっと見ていたいぐらいではあるのだがそこはそれ、このままでは落ち着いて話も出来ないので、そこは紳士としてしっかりと脳裏に焼き付けるに留めてとにかく胸を隠すようにお願いさせて頂いた。
「じゃから静かにしろというに」
「静かにしますからお願いします」
「変な奴じゃのう」
そういいながらしぶしぶ胸を隠す女性。とは言っても未だ胸に吸い付いたままのクレールをそのままに、まくり上げていた服を下ろし、すっぽりとクレールを覆い隠す感じではあったが。
あぁよく友人の家に遊びに行ったときおっぱいをあげるときにやっていたなぁ、なんてことを思い出しつつようやく一息ついた気持ちになった。
「それで貴方はどちら様ですか?ここは一体どこなんでしょう?クレールはなぜ貴方の、その、おっぱいを吸っているんでしょうか?」
「質問が多いのぉ、しかしこの娘はクレールというのか。よしよしクレール、たぁんと飲むのじゃぞ?」
「あ、あの~?」
「おぉ、すまんすまん。え~っとなんじゃったかの?」
俺の質問に対し、かなりとぼけた返事を返してくる女性。
よく見ればその容姿はかなり整っていて、髪は腰まで届くような長さで真っ白な雪のような色をしている。目は切れ長で、瞳の色はよく見れば金色に輝いていた。
スタイルはダボっとした貫頭衣によって隠れているが、先ほど見えたほっそりとした腰と比べてその暴力的なまでのサイズを誇る胸までは隠しきれておらず激しく自己主張をしていた。つまり要約するとものすごい美人!!
「いえ、ですから貴方はどちら様で、ここはどこで、何故クレールにおっぱいを与えているのかという話なんですが」
「おお、そうじゃったな!ワシはブランじゃ。ここはどこかと聞かれればまぁ里じゃな。なぜ乳をあげとったのかといえばこの娘、クレールじゃったか?腹が減ったと泣いておったからじゃの」
そういえばあの洞窟でクレールにミルクをあげている最中だったことを思い出し、あの時出てきた子竜とでっかい竜の事を何とはなしに聞いてみることにした。
「ありがとうございます。その、クレールにおっぱいをあげてくれて。それともう一つ質問なんですが、私はどうやってここに?正直なところ何故ここにいるのかがわからないんですよ。夢だったのかもしれないですけど、ものすごくデカくて白いドラゴンに吼えられたような気がしていて、そこから記憶がないというか・・・」
「そりゃあワシが運んできたからの、その白いドラゴンはワシじゃ。あのときは驚かせてすまんかったの」
「は?」
「じゃからワシがそのドラゴンじゃと言うとろうに。お主に向かって吼えたのはワシがあの子を探しておったときにようやく見つけたと思えば、人間に捕まっとると思ったんじゃ。それでつい威嚇してしもうた」
「竜人?」
「なんじゃ知っておったのか?見た目によらず博識じゃのう、いかにもワシは竜人じゃ。ほれ、外を見てみい。」
そう言われるがまま部屋の窓から外を覗いた俺は驚愕の光景を目にした。
大小、色とりどりのドラゴンたちが縦横無尽に空を飛び回る様は正に異世界ファンタジー!圧倒的な光景に目を奪われてしまった。
「ここは竜の隠れ里じゃ。隠れ里というくらいじゃからもちろん外部からはワシらの姿が見えんように結界も張られておる」
「・・・・・」
「どうしたんじゃ?驚いたのかの?」
「驚かないわけあるかーーーー!!!!!!」
なんだ!?このテンプレ展開!!急に異世界ファンタジーしすぎだろ!!いや、今までも十分ファンタジーしてはいたが、いきなりドラゴンに遭遇したと思ったら実はそれはものすっごい美人で子持ちで眼福で、しかも竜の隠れ里?盛りだくさんすぎんだろ!!
「びぇぇぇぇぇ!!!!」
「ほれ!お主が大声を出すから起きてしまったではないか!」
「あぁぁ!ごめんなクレール!」
俺が出した大声によりクレールが起きてしまいそれをあやそうと服の下からクレールを出すときに服が捲れあがってスイカの先端についているサクランボが見えたような気がしないでもないがそこは華麗にスルーすることに決めた。
「お~ヨシヨシいい子じゃの。まだ寝てていいんじゃぞ~」
「クレール~いないいなぁいばぁ!!」
「ふぎゃぁぁぁぁ!!!」
「全然泣き止まない!?どうしよう!?」
ブランが必死にゆすり、お尻をポンポンと叩いてみても、俺がいないいないばぁをしても一向に泣き止まない!こんな時は一体どうすれば!?
そこでふと思いついた俺は、泣き叫ぶクレールをブランに任せおもむろにスマホを取り出したネットショッピングのアプリを起動させた。
「これ、お主も早うクレールをあやさんか!」
「すいません、少し待ってください」
そういいながら俺はネットショッピング『IKUZIN』を手早く操作し、目的のものを購入する。
すると毎度おなじみの謎空間から小さめの段ボール箱が出現してくる。
「なんじゃそれは?その箱はどこから現れよった?」
「いや、私もよく分からないんですよね」
「ふんぎゃぁぁぁぁ!!!」
「あああ、よしよし。ほ~ら楽しいオモチャだぞ~」
そういいながら俺が箱から取り出したのは、所謂ベビートイというやつで、ウサギを模したアイスクリームのような形をしており、振るとカランコロンと可愛らしい音がなるものだ。
「ほらほらどうだ~?楽しいだろ~」
「キャッキャ♪」
何という事でしょう!あれほど泣き叫んでいたクレールがピタッと泣き止み、楽しそうに笑っているではありませんか!!某リフォーム番組のナレーションを脳内で差し込みつつ泣き止んだことに安堵する。
「なんとか泣き止んでくれたな」
「そうじゃの、しかしなんなのじゃそれは?見るところ子供をあやすもののようじゃが」
「あぁこれはベビートイというやつで、ブランさんが言う通り子供をあやしたり子供が遊ぶためのオモチャです。私がいた世界では一般的なものですよ」
「ほぉ~それはまた便利なものがあるのぉ・・・ん?今お主なんと言った?私がいた世界じゃと?」
「はい、私はこの世界の人間ではありません。私がいた世界には空想上ではブランさんのような竜や竜人はいますが実際にはいませんよ」
「なんと!そうじゃったのか、お主は”風流者”(ふうりゅうしゃ)じゃったか」
「”風流者”ってなんですか?」
「お主のように異世界から風に乗って流れてきた者を指す言葉じゃよ。久しく見た記憶はないがの」
「そうなんですね・・・あの、その私以外の風流者の人がどうなったかわかりますか?具体的には元の世界に帰ったとか・・・」
俺以外にもこの世界に渡ってきた人がいるという情報は、大きな衝撃をもたらし、元の世界に帰れるかもしれないという僅かな希望を感じたことから思わずブランさんに尋ねてしまった。
「期待に応えられんのが申し訳ないがの、生憎とワシは知らん。最後に見たのもいつじゃったか覚えておらんよ」
「そうですか・・・」
「そう落ち込むでない、ワシが知らんというだけでどこかにお主が元の世界に戻れる方法があるのかもしれんのじゃからの」
「そう、ですよね!ありがとうございます」
やはりそう簡単には元の世界に戻る方法何て見つからないよな。分かってはいたが少し期待してしまった。
何にしてもまだ暫くこの異世界を満喫することになりそうだ。
「それはそうとじゃな」
「はい?なんですか?」
「まだお主の名を聞いておらんかった」
「あぁ!すいません!!私ばかり質問してしまって名乗るのを忘れてました!」
「気にするでない、してお主の名は?」
「育田生真です」
「イクタショーマか、少しばかり長い名前じゃの」
「ああ、いえ、イクタは姓でショーマが名です」
「なるほどの、この世界では姓は後ろにつけるものじゃから今後名乗るときはショーマ・イクタと名乗ったほうがよいぞ」
「そうなんですね、ありがとうございます」
質問することばかりに気を取られてすっかり名乗るのを忘れていた!社会人失格だな・・・まぁこの世界で社会人などという概念があるのかどうかはさておき、イチ大人として最低限の礼節は必要だしな!
「さて話はこれぐらいにして、どうじゃ?腹は空いておらんか?そろそろ昼時なんじゃが」
「あ~」
そう話を振られると同時に、盛大に俺の腹の虫が飯を寄越せと自己主張を始めた。恥ずかしいぃ・・・。
「空いとるようじゃな!少し待っておれ!」
「すいません、何から何まで」
「よいよい、気にするでない」
カカッ!と笑いながらブランさんは食事の準備をするべく部屋をあとにした。
「良かったなぁクレール、あんな美人な人におっぱい貰えて!」
「キャッキャ♪」
クレールを抱き上げながら、何にしてもとりあえず温かいまともなご飯にありつけそうだという事実にこの世界に来て初めて本当の意味で安心出来た。
そのせいかほんのりと俺の胸の辺りが温かくなってくる、その温かい温度は徐々に胸からお腹にかけて拡がっていく。まるで温かいお湯が俺の上半身にかけられているようだ・・・。
「ん?・・・またか~!!!!」
俺の胸に広がった温かいモノはどうやらクレールのオシッコだったようだ。
「どうして毎回こうなるんだ!!」
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