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小説

現代育児グッズで快適異世界育児生活 2

第2話 粉ミルクと抱っこ紐と初狩猟

「ここをこうしてこう?かな?」

悪戦苦闘しながらも、なんとかオムツを交換することが出来た俺は、ようやくこの小さな赤ん坊をじっくりと観察する余裕が出てきた。

鎧の男から半ば強引に預けられたこの赤ん坊は首のすわり具合からみても、おおよそ4、5か月と言ったところだろう。子供が生まれて間もない友人の家に遊びに行ったときに、赤ん坊を抱っこさせてもらった事があるが、その時の赤ん坊の首は、今目の前にいる赤ん坊のようにすわっておらず、首の下に手を入れて頭を支えるようにして抱っこしろと散々注意をされた記憶がある。

このときのポイントはちょうど肘の内側に赤ん坊の首を乗せてあげるように抱っこすると疲れにくいという事だ!・・・話はそれたがその時友人に聞いた話では赤ん坊の首がすわり始めるのが3か月頃からとの話だったので恐らくそこまで予想はズレていないだろう。

そしてこの子の容姿としては小さいながらもしっかりと髪の毛が生えており、色は所謂プラチナブロンドで瞳の色は深みのある蒼、肌は白磁のようであり完璧に日本人ではない(当たり前だが)そして特徴的なのがその耳なのだが、どこからどうみても尖っている。

「まさかファンタジーものの定番!エルフってやつか!?」

しかし、俺がイメージするエルフとは違いそこまで長くもないし、もしかしたらハーフエルフというやつなんだろうか?いずれにしても大きな問題はそこじゃあない!!

「なんでよりにもよって女の子なんだよ」

さきほど盛大におしっこをかけられ、慌ててオムツを替える際に当然見るわけだ!!そこには勿論男の子についているゾウさんはおらず、そこにあったのは可愛らしい葉っぱだったわけだ!
生まれてこのかた30年近く男の子をやっている身としては、そもそもどうやって女の子の葉っぱ部分を拭いていいか分からない。
しかし拭かない訳にもいかないので散々迷った挙句、ついいつもの癖でスマホで調べようとしたところ、意外な事実が判明したのだ!!

それはまさかのネットサーフィンが出来るという事だった!!
これはまさかネット経由で助けが呼べるかも知れない!?と喜び勇んではみたものの、閲覧やワードを入力しての検索は出来るのに掲示板などに書き込んで送信するなどと言った行為は出来なかったのだ・・・まぁそもそも異世界から現代のインターネット環境にアクセス出来るというだけでも御の字ではあるのだが、そこはそれ天国から地獄という言葉が俺の頭に浮かんだのも無理のない話だった。

そんなこんなで機能の制限されたインターネットでなんとか葉っぱのお手入れ方法の情報を収集した俺は恐る恐る人生初のオムツ替えイベントをこなしたわけだった。

「君も災難だねぇ、こんな訳の分からない男に預けられて」
「ビェェェェェ!!」
「おわっ!!!なんだ!?どうした!?」

先ほどまではオムツを取り換えられて気持ちよかったのかニコニコとしていたのに、急に泣き出す赤ん坊にびっくりした俺は、慌てて思わず赤ん坊を落っことしそうになるがそこはなんとか体制を立て直しセーフ。

「ふぎゃぁ!!おぎゃぁ!」
「お~ヨシヨシ、どうしたどうした~?」
「あぎゃぁ!んぎゃぁ!」
「ダメだ!全然泣き止まない!いったいどうしろと!?」

どれだけ抱っこしても軽くゆすっても一向に泣き止まない赤ん坊にほとほと困り果ててしまったのだが、そこでちょうど俺の腹が盛大に空腹を訴える音が聞こえてきた。

「あ~腹減ったなぁ・・・ってもしかしてお腹空いたのか!?」

自分の空腹感で赤ん坊の訴えに辺りを付けた俺は、慌てて粉ミルクを準備しようとするのだがどうやっても赤ん坊を抱っこしたままで片手では準備が出来ない事に気が付いた。
そこで一度赤ん坊を車のリアシートに寝かせようとしたのだが、置いた瞬間にさらに火が付いたように泣き出してしまいどうすることも出来なくなってしまった。

「せめて抱っこ紐みたいなのがあればなんとかなるんだが・・・・」

どうしたもんかと頭を悩ませながらふとスマホの画面を覗きこんだとき、俺の目に飛び込んできたのはひとつのアプリアイコン。

「まさか、そんな、ねぇ?」

自分の考えに疑いを持ちつつも、期待半分でアプリを起動させてみるとそこにはいつもの見慣れたショッピング画面が映し出され、多種多様な商品がラインナップされていた・・・されてはいるのだが何故か育児関連商品のみという超限定的な品揃えで!!

「何故育児関連のみ・・・」

しかしここまでお膳立てされていれば後はもうなるようになれと、半ばやけっぱちで抱っこ紐を検索しお目当ての商品を表示させ『カート』にぶち込んだ。
その際、右上に表示されていた使用限度額が何故か俺の預貯金の額と同額だったのだがそこはあえて無視して『今すぐ購入』をタップしたところ、使用限度額から抱っこ紐の代金のおよそ一万五千円分が差し引かれ、その瞬間何処からともなく段ボール箱が目の前に出現し、地面に音もなく置かれたのだった。

「もうなんというか、なんも言えねぇ」

目の前に置かれた段ボールにはでかでかと、どこかで見たことのある笑った口のようなデザインの線とともに『IKUZIN』という文字がプリントされていた。

「いったいどこのAm〇zonさんだよ!」

誰に向けての突っ込みなのかは自分でも分からないが、ともかく欲しかった抱っこ紐が目のまえに届いたのでさっそく段ボールの封をあけ、さっそく装着した俺はいまだに大泣きし続ける赤ん坊を抱っこ紐の内側に納めて抱っこをした。

「おお!これはいいものだ!」
「びぇぇぇぇ!!!!!」

予想外の使用感の良さに喜んだのもつかの間、赤ん坊の早くミルクを寄越せ!と言わんばかりの催促に慌てて準備を始める。

「確かミルクは人肌がいいんだよな」

いくら育児経験の無い俺でもそれぐらいは知っている。
コンビニで買って飲まないまま車のジュースホルダーに差していたミネラルウォーターをバーベキュー様に準備していたケトルに入れ、シングルバーナーにセットして湯を沸かす。
バーベキューとかキャンプなど野外で淹れるコーヒーってなんか格好いいって思うのは俺だけだろうか?
それはともかく、さすがにいくら大丈夫そうにみえる湖の水でも赤ん坊のミルクにいきなり使うのは気が引けたので、ミネラルウォーターを使った。
あとで本当に大丈夫か自ら人体実験だな・・・。

そこから程なくして湯が沸いたので、哺乳瓶に粉ミルクのキューブを入れて湯を注いで哺乳瓶をくるくると回し溶かしていった。

「ありゃ?なんかダマが多いな?なんでだ?」

思ったように溶けない粉ミルクに疑問を持ちつつ、ある程度溶けたところでキャップをして湖の水に瓶ごと漬ける。
その間も延々と泣き続ける赤ん坊をあやしつつ冷えるのを待ってしばらくしてから瓶を引き上げたのだが。

「少し冷やしすぎたかな」

人肌というには若干冷たい気がした、ちょうどいい温度にするのって難しいな。
温度はともかくなんとかミルクが出来たので抱っこ紐から赤ん坊を下ろし、再度横抱きの体制になって早速あげてみることにしたんだが・・・。

「よっぽどお腹空いてたんだなぁ、ゴメンな手間取って」

一心不乱にミルクを飲む姿は可愛らしさと同時に俺に驚きを与えた。

「飲むの早っ!!」

あっという間にミルクを飲み切った赤ん坊はどことなく苦しそうに見えた。
友人がミルクを上げたあと何故か縦抱きをして背中をポンポンと叩いていたのを思い出し、理由は分からないが何か意味があるんだろうと思い同じようにやってみることにした

「ケェップ!!」

可愛らしいゲップだなwそうか、赤ん坊は上手く自分でゲップ出来ないからこうしてゲップ出来るように促してあげてたんだな!?
しかしこうして赤ん坊の世話をしていると、何をこれだけでと言われるかもしれないが育児というものはやはり大変なんだなと実感できる。
大人の様に自分の意思を言葉で伝える事も出来ず、精一杯泣いて自己主張するしかない赤ん坊は、こんなに小さくても生きる為に必死なんだ。
強引に押し付けられた形になった赤ん坊だが、なんとかこの子が不自由なく生きられるようにしてやらなくちゃなといつの間にか考えている自分に驚く。

「これが母性本能か・・・いや俺は男だから父性本能?」

結婚もせず、いきなり子持ちになってしまったがこの寄る辺のない異世界で生きがいと呼べるものが今この手にあるのだと思うと悪いことではない。

「さて、赤ん坊も満足したようだし俺も腹ごしらえしたいところだが」

残念なことに粉ミルクやオムツなどは大量にあっても、肝心の大人用の食料は皆無である。
早急になんとかしないと俺も飢え死にだ。当然俺が飢え死にするという事はこの子を世話する者もいなくなるという事だ。

「いっちょ食料探しを頑張りますか!」

心機一転したところで、腕の中でスヤスヤと眠る赤ん坊を抱っこ紐でなんとかおんぶの体制に持っていき、完全に前側をフリーにして俺は再度動きだした。
結界?らしきものがあるこの湖周辺は安全エリアだとしてあまりこの場から離れることは得策ではないように思える。

先ほどのような化け物と遭遇した場合、現状の俺では限りなく勝率はゼロに近いだろう、というかゼロだ!いつでもダッシュで安全エリア内に戻れる位置にはいないとまずいだろう。
そのうえで食料を確保しなければならないとなると、なかなかにハードルが高い。
とりあえずは安全を最優先にしつつ徐々に探索範囲を広げていくしかないな!!

そう考えた俺は先ほどでも大活躍したスマホのマップ機能を起動し近くに赤い点がないかを確認した。

「よし、とりあえず近くには赤い点はないな」

というかこのマップ機能、万能過ぎやしないか?かなり遠くの生体反応まで表示出来るぞ?しかも何だかどこかで見たことのあるようなマップだよな・・・あれだ!!某有名ハンティングゲーム『モンスター〇ンター』のマップだ!

「だとするともしかして採取ポイントとかも表示され・・・てるぅ!!!」

俄然難易度下がって来たんじゃないかコレ!?取りあえず近場の採取ポイントと思わしき場所に行ってみよう!!



「ほんとにあったよ、ハチミツ」

マップに表示されたポイントに向かうとそこには大きなハチの巣があった、あったのだがどう考えても採取は無理!だって巣の周りを滅茶苦茶ハチがぶんぶん飛んでるもの!
仕方ないハチミツは諦めよう、次だ次!!

「さて他の採取ポイントは・・・ん?」

再度マップを覗きこむとそこには新たに見慣れない表示、具体的には緑色の点が表示されていた。
この場所からさほど離れていない場所に緑色の点が表示され、しかもその点は非常にゆっくりとではあるが時折移動しているようだ。

「近づいてみるか」

幸い俺の背中にいる赤ん坊はまだスヤスヤと眠っている。
頼むから急に泣き出さないでくれよ?

木々の間を抜け目的の場所までたどり着くとそこは小川であった。
その小川に口をつけ、水をごくごくと飲んでいるのは

「豚?だよな?」

モン〇ンでいうところのモス?のような丸々と太った生物がそこにいた。
足は短くずんぐりむっくりとしており見るからに鈍重そうだ。

「これでいけるかな?」

ベルトに差したままにしていたサバイバルナイフの柄を握りしめ、彼我の距離を慎重に詰めていく。
生き物を殺すことに抵抗はあるが、今はそんな事も言っていられない。
食料を確保できなければどのみち俺に待っているのは飢え死にだ、しかもセットでこの背中にいる赤ん坊も共にというのだからタチが悪い。
俺一人ならば、自分の行動で自分がどうなろうと俺だけで済むが今は守ってやらなくちゃならない者がいる。
そう思うと自然と覚悟も決まろうというものだ。

「すまん!!」

十分に距離を詰めたところで、逃げられないように覆いかぶさるようにして押さえ込み一気に手にしたナイフを豚?の首元に突き刺す。

「プギィィィ!!!」

かなりの抵抗にあったがそこはそれ、こちらも赤ん坊を背負っているので万が一にも転げまわることは出来ないから全力で押さえ込んだ。
そして程なくして徐々に抵抗は弱まっていき、やがて完全に動かなくなった。

「覚悟はしてたとはいえやっぱりキツイな」

初めて生き物を殺めた感覚というものは筆舌に尽くしがたいものがある。
たっぷりと5分ほど放心していただろうか?なんとかフリーズ状態から脱して、動かなくなった豚?の方を見る。

「とりあえず食材になりそうではあるし持って帰るか」

幸い車のある仮称キャンプ地まではそこまで距離は離れていない。
流石に赤ん坊をオンブしたままでは抱えることは難しいので片足を掴んでそのままズルズルと引きずって帰ることにした。
しかし本当にこの子は大人しいな。
こんなにドタバタしていたのに一向に起きる気配がない。
「大物だな」



「上手に焼けました~♪」

なけなしのサバイバル知識とgo〇gle先生の力を総動員してなんとか解体を終えた俺は早速グリルに火を起こして簡単に焼くだけの調理をした。

「いただきます!!」

初めて自分で狩った獲物の味は涙が出るほど美味かった!!一時はどうなることかと思ったがなんとか食材も確保できたし、とりあえずの危機は去ったな。

「ん?なんだこの匂い」

微かに香るこの匂いは・・・
もしやと思い背中にオンブしたままの赤ん坊を下ろし、顔の目の前まで赤ん坊を抱っこして近づけ、恐る恐るオムツの匂いを嗅いでみると。

「クサっ!!いや思ったよりは臭くないけどくさっ!!」

どうやら俺の一日はオムツ替えに始まってオムツ替えで終わるようだった。
このときの俺はまだ知らない、本当の戦いは夜中に起こるのだと・・・・。


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